乳がんキャンペーン

乳がんについて About Breast Cancer

識者からのメッセージ

乳がん患者の一番の苦痛は「脱毛」

乳がん治療で抗がん剤を用いた場合、どんな外見の変化が起こるのでしょうか。

山崎さん
もっとも大きな変化は脱毛ですね。私は乳がんになって抗がん剤治療を勧められた時、「髪の毛が無い自分」を想像し絶望的な気分になりました。「そんな姿になったら普通に外に出られない。絶対に治療はやりたくない」と思ったほどです。あの時はがんで死ぬことよりも、外見が変わることのほうがリアルで切実な問題でした。
野澤先生
実際に、乳がん患者の方たちを対象にした調査によれば、一番の苦痛が「脱毛」で次が「乳房切除」、6、7位ぐらいに「眉毛や睫毛の脱毛」が入ってきます。海外の調査も同様で、乳がんの患者さんは、“外見の変化に対する苦痛”の割合が非常に高いのが特徴です。それは、他のがんより平均年齢が若いことと、乳がん治療では確実に脱毛する薬を使うからなんですね。

山崎さん
それでも治療を受け入れ、髪の脱毛は覚悟しましたが、眉毛と睫毛が抜け、顔も黒ずんだ時は本当に弱々しい、重病人の顔に激変して…。「この顔を他人が見たら、私が死ぬのではと思われるに違いない」と。生きていくために必死に治療しているのに、そう思われるのは悲しいです。髪が抜けても入院しているならいいですが、乳がんの抗がん剤治療は通院が基本。社会生活を送りながら闘病するので、どうしても外見が気になるんですね。
野澤先生
山崎さんがおっしゃる通り、乳がんの闘病中は他人の目や人間関係の変化によって、また自分の姿を目の当たりにするたびに、がんである事実を突きつけられます。とはいえ、他人の反応がポジティブだと逆に前向きになれたりするので、最初から病気をカミングアウトするのも一つの方法です。一方で、徹底的にカモフラージュする患者さんもいますね。
山崎さん
家族にさえ一切言わない、という人は意外といますね。
野澤先生
「親に心配をかけたくない」という理由もありますし、親御さんが高齢になってくると、認知症など病気にかかられているために言えない場合も多いですね。

病気をカミングアウトすべきかどうか

山崎さんは最初から乳がんをカミングアウトされたそうですね。

山崎さん
別に悪いことをしたわけでもないのに、ひと目を避けてコソコソしたくなかったんです。もっとも最初の診断が超早期で、手術をすれば終わると思っていたので周りに言えたところもあります。実際には超早期ではなく、そこからが本当の闘いだったのですが。もう一つには、今や生涯のうちに12人に1人に乳がんにかかり、事故や天災などで健康でも命を落とす人がいるのだから、確かに人生のピンチであるにせよ、自分だけが特別不幸なわけじゃない。だから隠す必要はないと思ったんです。でも実は、萎えそうな心を奮い立たせるために、一生懸命そう言い聞かせていたところがありました。
野澤先生
乳がんにかぎらず病気の情報はプライバシーなので、他人に言う必要はないんです。ただ患者さんには、治療のためにスクラムを組む必要があるお子さんには、早く伝えるようにアドバイスしています。あとはケースバイケースですね。
山崎さん
私の場合、外に出られなくなること、普通の自分でいられなくなるのがとにかく悔しくて。反骨精神というか、人生の中であれほど必死だった時期はなかった気がします。そういう意味で、仕事柄メイクに関する取材をしていたこともあり、外見の変化をお化粧で回復させる技を知っていたのは大きかったですね。目の錯覚を利用するお化粧の基本理論を思い出し、応用してみたら周りの反応が変わったどころか「最近、キレイになったんじゃない?」と言われたんですよ。それ以前はメイクもいい加減だったので(笑)。キレイになることは、自分だけでなく他人にも影響をもたらすこともよく分かりました。逆に具合が悪そうに見えると「大丈夫?」と心配されるし、印象が激変するほどだと、人って近づいてきませんよね? それは外見の変化にどうリアクションしていいか戸惑ってしまうんですね。

野澤先生
その通りですね。そういう反応があるせいか、乳がんにかかると外に出るのを避ける方も多いです。山崎さんのような方は例外かもしれません(笑)。
山崎さん
そうでしょうか(笑)。
野澤先生
もともとのパーソナリティーもあるでしょうし、第一線で仕事をされてきたこともあると思います。中には無理してカミングアウトする人がいますが、本来のパーソナリティーではないとボロボロになってしまうんです。ですから、患者さんには「別に無理する必要はなく、今まで通りの生活をすればいいんですよ」と言いますね。

外への一歩のための「アピアランス支援」

あらためて「アピアランス支援」の目的とは何でしょう?

山崎さん
「アピアランス」というと、たんにキレイにすることだとよく誤解されますが、そうではないんですよね。
野澤先生
キレイになるのが目的ではなく、大事なのは「その人が一番いい形で社会に関われること」。その具体的な手段としてメイクやウィッグがあるわけです。逆にものすごくキレイになっても、家から出たいと思えなかったら意味がないですし、キレイになれば元気になれるほど人間は単純ではないので。患者さんの本当の悩みを見つけることを常に一番に考えます。

野澤先生がセンター長を務められている、国立がん研究センター中央病院「アピアランス支援センター」の活動についても伺わせて下さい。

野澤先生

主な活動は、アピアランスケアの研究と教育、臨床の3つです。臨床では、患者さんたちがいつもの日常を送れるよう、がんの治療に伴う外見の悩みに対処するとともに、最新の情報の提供も行っています。「コスメティックインフォメーション」というウィッグやメイクなどに関する外への一歩につながるグループ講習のほか、個別相談で実際に悩んで困っている方への支援、長期入院患者さんのストレス緩和などさまざまです。たとえば、若い患者さんが「消えない眉の方法を教えて欲しい」と相談にいらしたことがありました。ドラッグストアやデパートの化粧品売り場に行けば、ウォータープルーフの商品をいくらでも紹介してくれますよね?
でもアピアランス支援センターの目的はそうではないので、相談の理由を聞いたんです。すると「明日、会社に復帰するけれど、間違いなく泣いてしまって眉が消えてしまう」と。それはつまり、そんなに温かい職場に戻る、ということですよね。そこで「泣いて眉毛が消えても、周りの人たちはきっと頑張った、よく戻ってきたと一緒に泣いてくれるのでは?」とお話したら、「本当にそうです。気が楽になりました」と帰られていきました。この患者さんに一番大切な支援は、温かで幸せな時間を純粋に仲間と共有してもらうことです。そこで眉が落ちないかなんて、些細なことに意識がいったらもったいない。 あくまでも一例ですが、これが「アピアランス支援」です。私たちがゴールとして考えているのは、「患者さんと社会をつなぐこと」なんですね。

山崎さんはご自身の体験から乳がん患者の方たちをサポートする活動を続けられていますね。

山崎さん
私の経験から病気と向き合うには正しい知識が必要なことと、病気の先輩を身近に感じられるととても心強いので、自分でも勉強して支援活動をしています。 闘病中にメイクの力で「キレイになった」と言われ、思っていた以上に「化粧ってすごい!」と感じたことがきっかけで、メイクセミナーもしているので、今ではメイクアップの人だと思われたりもしていますが(笑)、乳がんになるまで人の顔を触ったこともなかったんですよ。でも野澤先生がおっしゃる通り、「患者さんの外への一歩」につながればいいわけですから、プロの技術でなくていいと思っています。
野澤先生
お化粧に関する面白い研究結果があるんですよ。自分に全然似合わないメイクをして、周りの人もそう思いながら褒めちぎると、ほとんどの人はそのお化粧を落とさずに帰る。他者からの評価が上回るというわけです。反対に、どんなにキレイで似合ったメイクでも、周りの評価がネガティブだと落ち込んでしまう。人間にとってそれほど対人関係が重要だからこそ、社会に関われるような患者さんへのサポートを、国立のがんの研究機関である私たちが行う意味はとても大きいと思っています。

アピアランス支援のこれまで、そしてこれから

アピアランス支援をとりまく状況はどのように変化していますか。

山崎さん
この10年でとても良くなっていますよね?
野澤先生
世界的にアピアランスへの意識が高まっている流れもありますし、患者さんの声に押されて医療者が理解を深めてきています。10年前は、当院でもまだ「アピアランスって何?」という世界でしたから(苦笑)。 当センターでは、教育活動の一つとして、拠点病院の医療者向けの研修を行っており、今年で4年目です。年々盛況で、医療者の関心も高まっています。研修を修了した医療者には当センターのシンボルマーク「オレンジクローバー」のバッチをお渡ししています。毎年100人が受け取っているので、5年、10年後にはかなりの数になり、全国的にもアピアランス支援がより強化されているはずです。
山崎さん
乳がんの治療に関しては、地域格差が減ってきました。今、私が気になるっているのは再発した後のケアです。今後充実してくればいいなと思います。それから検診する人の数がここ数年、横ばいなのも気になります。「ピンクリボンキャンペーン」を通して、検診の重要性を伝えるとともに、これだけ多くの人が乳がんにかかっていることをぜひ知って頂きたいと思います。野澤先生がおっしゃった通り病気はプライバシーなので公言する必要はありません。ただ、偏見や仕事を失うのが怖くて、言いたくても言えない。がんを隠さなければいけない社会は不健全です。それが身の回りにこれだけたくさん乳がん患者がいると実感できず、他人ごとになってしまうのでは。カミングアウトできない人も多いと思うので、今は私のような、公言してもいい体験者が実情を伝え、がんに対する偏見を取り去っていきたいですね。

その人らしくいるために……化粧品の役割

化粧品ブランド「エスティ ローダーグループ」は女性の健やかな美しさを願う化粧品ブランドの集合体として、
乳がんの知識啓発活動「ピンクリボンキャンペーン」に取り組み23年目となります。
最後にあらためて、女性の心やカラダに与える影響について、化粧品ができるささやかな貢献についてのお考えをお聞かせ下さい。

山崎さん
乳がん患者の方がメイクセミナーに来る時、皆さん無表情で下を向きがちです。でも帰る時は満面の笑顔で、背筋が伸びてスタイルまでよく見える。その人本来のキャラクターが出てくるんですね。メイク、化粧品の力を使うことで、患者さんが切望している、本来の自分を取り戻す手助けができると思います。 私が言うのも僭越ですが、化粧品や美容に携わっている方々には、ピンクリボンを機に、ご自身が持っている知識や技術が、誰かの「前を向く力」になりえることに改めて誇りに思い、今後も取り組んでいただけたら嬉しいです。
野澤先生
患者さんがメイクをすると外見が元気に見えることはもちろん、「病気だった人が、そんなこともできるようになったんだ、前のように付き合えるんだ」と周りが安心するんですね。本人が普通にいれるのがうれしいのはもちろん、周囲へのポジティブなメッセージとして受け止めてもらえて、対等な人間関係になっていく。「社会とつながる」という意味で、化粧品の役割はやはり大きいと思います。 何より「ピンクリボンキャンペーン」が掲げているように、乳がんは早期発見が可能ですから、大勢の方に定期的に検診を受けて頂きたいです。そして、乳がんは患者さんの平均年齢が若いので、その後に社会復帰して、前と同じようにちゃんと人生を送るための支援が大事。今後もそのための活動を続けていきたいと思っています。

プロフィール

野澤桂子 先生
立教大学法学部卒業。1996年~1998年のフランス滞在中、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上のために外見の問題が重視されている医療現場に関心を持ち、帰国後、臨床心理士資格取得。「外見と心理」を研究テーマに目白大学大学院心理学研究科博士課程を修了し博士号取得。2001年、顔分析鎌田塾メイクプロコース高等科修了。2002年より北里大学病院、2005年より国立がんセンターで、患者の闘病や社会復帰を心身両面からサポートするためのプログラムを実施。山野美容芸術短期大学教授を経て、2013年より現職。
山崎多賀子 さん
化粧品メーカーの会社員、女性誌の編集者を経てフリーに。2005年に乳がんを告知され、右乳房全摘出、再建手術・抗がん剤・分子標的治療を受け、2007年にホルモン療法を開始、2012年終了。 闘病中の取材・連載をまとめた『「キレイに治す乳がん」宣言!』(光文社)は乳がん患者のバイブルに。NPO法人キャンサーリボンズ理事、NPO法人キャンサーネットワーク認定乳がん体験者コーディネーター。女性の乳房の健康を応援する「マンマチアー」を仲間と立ち上げ、定期的にセミナーを主催。また聖路加国際病院内の支援企画でビューティリングのメイクレッスンを担当。

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