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乳がんについて About Breast Cancer

識者からのメッセージ

プロフィール

1996年東京医科歯科大学医学部卒業。国立がんセンター中央病院レジデント、がん専門修練医を経て2003年7月より国立がんセンター中央病院乳腺・腫瘍内科医員。2012年より外来医長。専門は乳がんの薬物療法。2010年日本乳癌学会診療評議員。2003年のM.D. Anderson Cancer Center Medical Exchange Programへの参加ががんの「チーム医療」を考える契機となり、乳がん患者のサバイバーシップの包括的な支援を目指して、臨床研究やトランスレーショナルリサーチに取り組んでいる。

今や日本人女性の15人に1人が乳がんにかかると言われています。そんな中、乳がん治療に伴う外見の悩みを対処する《アピアランス支援》に取り組まれている清水先生に、自分のため、大切な人のために知っておきたい乳がんについて伺いました。

日本人女性の乳がん検診率は高い?低い?

世界的にピンクリボン活動が広まる中、日本でも乳がんへの認知が高まっていますが、検診を受ける人は増えているのでしょうか。

昔に比べると、乳がんに対する認知度は上がっていますが、各自治体が行っている対策型の乳がん検診にかぎっていえば、受診している日本人女性の割合は決して高くはなく、2割強ぐらいでしょうか。医療の現場にいても、検診に行きにくい社会的環境があるのだなと感じます。仕事を休んで検診に行くのが難しかったり、子育てや家族のことで忙しくて、自分のことはつい後回してしまう傾向が、まだまだある気がしますね。
実は検診の有効性については、今、全世界的に議論されているところでもあります。とはいえ女性として生まれた以上、検診も含めて、乳がんについて知っておくことは必要だと思います。アンジェリーナ・ジョリーが乳がん予防のために両乳房を切除して注目が集まりましたが、乳がんや卵巣がんと診断されたご家族がいる方は、遺伝的なリスクを意識して、若い年齢からしっかり検診を受けられることをおすすめしますね。

乳がんは特別なことではない

検診の結果、もし乳がんと診断されたら、まず何を心がければいいですか。

あまり焦らないこと、特別なことが自分だけに起きたと思い込まないことですね。それから自分の病気をちゃんと知ること、勉強することが大事です。インターネットや本などから簡単に知識や情報を得ることもできますが、それでは自分の病気を理解することにはなりません。温存したいと思ってネットで調べても、その人のがんの状況によっては、温存を選択できないことだってあるのですから。まずは自分自身の乳がんについて一番良く知る主治医の話を聞いて理解する。それからどんな治療法があるかを教えてもらい、そこから考えていけばいいと思います。その間、何か疑問が出てきたら、ぜひ主治医にぶつけてみて下さい。気がかりを抱えたまま治療を進めたり、逆に早く病気を何とかしようと焦ってしまい、十分に選択肢を知らないまま治療を受けて、後悔したところで元には戻れないので。もし主治医の対応や与えられた選択肢に疑問が残るなら、セカンドオピニオンをもらうなどして、そこからまた、どうすべきかを考えていけばいいと思います。

乳がん治療の選択肢が増えている

乳がんの治療には、どんな選択肢があるのでしょうか。

従来の温存、全摘に加えて、乳房再建が選択肢として定着し、一部保険も使えるようになりました。昔は手術のみの治療が多かったのですが、乳がんに関する生物的な背景の研究が進んで、薬を使った治療の比重が大きくなっています。それぞれの患者さんごとに、再発の可能性がどれくらいあるかをより正確に予測して、治療を過剰にもならずに、過小にもならずに行う努力、治療の個別化も進んでいます。テーラーメイド医療と言われるものですね。さらに分子標的薬剤と呼ばれる薬物療法など、治療の選択肢が増えてきています。

抗がん剤が副作用をもたらすわけは?

分子標的薬剤と、従来の抗がん剤との違いはどこにあるのでしょう。

一言で説明するのは難しいのですが、簡単に言うと、抗がん剤、正確には化学療法は、がん細胞の細胞分裂を抑えることによって、がんを退治しようとするものです。その過程の中で正常な細胞分裂も一緒に抑えてしまうので、抗がん剤を使うと骨髄や毛根、爪などに副作用が出るんですね。分指標的薬剤はそれとは逆に、乳がんが女性ホルモンに依存して大きくなる性質に着目し、女性ホルモンの働きを抑えて、がんを縮小させる薬物療法です。つまり、この二つは開発の方向性がまったく違います。近年は分指標的薬剤の開発が進んでおり、今、開発されているものはほとんどがそうですね。

身体だけでなく、心の健康も大事

清水先生がテーマにされている、乳がん患者の「サバイバーシップ」についても教えて下さい。

病院の診察室の会話というのは、どうしても医学的なことに終始しがちです。でも身体的なだけでなく、精神的、社会的な意味でも健康でなければ、人は幸せを感じることはできない……そうした考え方から生まれたのがサバイバーシップです。最近はがんの患者さんも外来通院が出来るようになりましたが、それなのに患者さんが家に引きこもっていたら、一体何のための治療なのでしょう。または再発があるがんの場合、治療には限界があり、治療しても寿命が延びるか分からない。その状況で、寿命を伸ばす治療だけに集中して、それ以外のことがないがしろになったとしたら、本当の意味で幸せとは言えないはずです。病気も含めて、患者さんの前向きな生き方を探っていく姿勢、生きて行く上でのトータルなケアを考えていくのが、私が思うサバイバーシップですね。

治療による外見の変化がストレスに

乳がんの手術や薬、治療の結果、外見が変化して生活スタイルを余儀なくされることは多いと思います。清水先生は、そうした患者さんのための「アピアランス支援」にも積極的に取り組まれていますね。

昨年、国立がん研究センター中央病院内に新設された「アピアランス支援センター」では患者さんたちがいつもの日常を送れるよう、がんの治療に伴う外見の悩みに対処するとともに、最新の情報の提供、研究・教育・臨床を行っています。化学療法を始めると髪の毛、まゆげ、あらゆる体毛が抜けますし、爪がはがれたり、皮膚の色素沈着などいろいろな影響が出てきます。そうなると人前に出ることはストレスとなり、患者さんは「この顔では外に出られない」「ウィッグが合わない」といった、社会的な意味で苦痛を感じ始めるんですね。なぜなら外見というのは、社会との接点だからです。特に女性の場合はそうした苦痛が大きくて、抗がん剤治療の副作用による苦痛度の統計では、頭髪の脱毛が悩みのトップにきています。罹患の年齢によっては就職活動への懸念が生まれ、成人式や結婚式をあきらめるところ、少しでも患者さんの不安を軽くして、大切なライフイベントを諦めないためのコーディネートもしています。また手術・抗がん剤・放射線などがんの治療をした場合、どんな外見の変化が起こるかなどの情報提供プログラム、ウィッグやメイクなど外への一歩につながる講習会「コスメティックインフォメーション」も行っています。ただ、一般的なお化粧と違い、あくまでも自分が納得して社会に出られる顔にするためのケアです。眉毛が抜けてしまったけれど、今まで描いたことがない方に知恵を授けるといった、自分でできるケアの仕方をお伝えする。そうすることで患者さんに自分らしさを取り戻してもらうことを目指しています。

アピアランスをケアすることで、治療、治癒にどんな影響がありますか。

実際にどれだけ元気になったかという統計は、今後きちんと取っていく予定ですが、例えばグループでの講習会では、患者さん同士が「きれいになったじゃない」と言い合ったり、皆さん元気になられていますね。医師にとっても患者さんとの会話が病気のことだけではなくなり、いろいろな表情を見せて下さるので、元気の素になります。心が元気になって患者さんの免疫力が上がり治療に対する意欲が高まればいいなと。これはあくまでも私の夢ですが、それに近づけるような活動ができればと思っています。

治療に参加する意識を持って

最後に、日本の女性たちにメッセージをお願いします。

私自身はアピアランス支援のほかに、若年の患者さんの妊娠の問題にも取り組んでいます。化学療法は卵巣を老化させますし、ホルモン療法を行った場合、その間は妊娠できなくなります。もし35歳で乳がんと診断されて、10年ホルモン療法を受けたとしたら、年齢的に妊娠は難しい。だとしたら、途中でホルモン療法をストップして子どもを産むことを選ぶのか、もしくは治療を優先するのか……それは女性の患者さんにとっては、その後の人生を左右する問題でもあるわけです。にもかかわらず、これまでは一方的に医師が生存期間を延ばすことが最優先だと言って、治療を選択していました。でも、子どもを産むことと、生きるか死ぬかというのは、まったく違う価値観なので、どちらを選ぶかは本来、患者さんであるべきで、医師の役割は、患者さんが自分の価値観に当てはめて結論を出すために必要な医学的な情報を、分かりやすく説明することだと私は思っています。ですから患者さんには、ぜひ治療に「参加する」意識を持って頂きたいですね。
もし乳がんになったとしても、がんと向き合うことで得られることが必ずあるはずです。大変なことはもちろんありますが、私たちのような医師もいるのでひとりぼっちではないことを、どうか忘れないでいて欲しいと思います。

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