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乳がんについて About Breast Cancer

識者からのメッセージ

プロフィール

1987年順天堂医学部卒業。聖路加国際病院外科レジデントを経て、1994年渡米。ハーバード大学ダナファーバー癌研究所、ジョージタウン大学ロンバーディ癌研究所でリサーチフェローおよびインストラクター。ハワイ大学にて外科レジデント、チーフレジデントを終了後、ハワイ大学外科集中治療学臨床フェロー、南フロリダ大学モフィット癌研究所肉腫臨床フェロー。2009年4月より聖路加病院乳腺外科医長を経て、2010年6月より現職。アメリカでの乳がんの研究、臨床経験を生かして、患者に寄り添う診療を目指している。

15年にわたりアメリカで乳がんの研究、外科医として診療にあたられた山内英子先生。
日米の治療の最先端を経験されてきた山内先生に、誰もが知っておきたい乳がんのことをお聞きしました。

日本で乳がんが増えている?!

今や「日本人女性の15人に1人が乳がん患者」だと言われていますが、実際に日本で乳がんは増えているのでしょうか。

確かにそれは事実で、1970年代と今とでは、20歳から50歳ぐらいまでの若い世代に顕著に増えています。理由はいろいろあるでしょうが、その一つに、食生活の変化が挙げられると思います。私は銀座に日本のマクドナルド第一号店ができたのを覚えている世代ですが、お米中心だった日本人の食事が、1970年代ぐらいから大きく変わり始めました。何十年も前からの食生活や、医療的な大規模な調査の記録が残っていないので正確なことは言えませんが、何らかの影響はあると思います。初潮年齢も、私たちの祖母の時代は16歳ぐらいだったのが、今は11歳、10歳と早くなっているでしょう。ちなみに、8人に1人が乳がん患者だと言われるアメリカは、日本とは逆に、閉経後の発症率が多いんですね。そう考えると、食生活が欧米化した頃に育った今の4、50代が閉経後になってきた時には、欧米のように閉経後の乳がんが増える可能性もあるかもしれません。

欧米より乳がん検診率が低い理由とは?

乳がんにかかる人が増えているにもかかわらず、乳がん検診率は、欧米に比べるとまだまだ低いそうですね。

2009年のマンモグラフィ検診受診率を見るとアメリカが72.5%なのに対し、日本は23.8%です※。とはいえ、医療保険システムの違いがあるので、この数値だけでは計れないところもあるんですよ。というのも、アメリカでは保険に入っている人には家庭医がいて、乳がんなどの検診を受ける時期も含めて、その人の健康を見守るゲートキーパー的な役割を担っています。検診で何か異常が見つかれば、次は放射線医や外科医に行きなさいという風に、検査を進める窓口になってくれる。だから検査や診察が受けやすい上に、検診での結果や数値はすべて保険会社に送られるため、医学的なデータが蓄積されているんですね。日本の場合、最近は各自治体が乳がん検診の無料クーポンの配布を始めたとはいえ、受けるかどうかの判断は個人に委ねられています。健康に関心があり、自分でお金を払ってマンモグラフィや人間ドックに行っている人も多いはずですが、その数が把握できておらず、データに反映されていないという現状もあります。

※OECD (Organisation for Economic Cooperation and Development), Health at a Glance 2009 より

検診の際に理解しておくべきこと

乳がん検診は、何歳から受け始めるべきでしょうか。

やはり40歳からは受けることをお勧めします。また、乳がんや卵巣がんに関しては、家族の中に診断された人がいる場合は、その発症年齢よりも、若い年齢から受診を心がけたほうがいいですね。私は「テーラーメイド検診」と呼んでいますが、乳がんにかぎらず、病気に関する家族歴を見ながら、検診を受けるかどうかを決めることも必要だと思います。 ただ、検診を受ける年齢に関しては数年前、アメリカで40代の乳がん検診を勧めるかどうかが大きな議論になりました。乳腺密度が高い40代は、マンモグラフィでのがん検出の精度が低く、誤った診断で不必要な組織検査を受けさせられるなど、デメリットが多いことが理由でした。ここからわかる通り、検診にもリスクがあるわけです。そのことは理解しておいて欲しいですね。それからたとえば欧米人と日本人とでは、胸の大きさや質が違うので、どの検査が効果的なのかも違ってきます。日本人の乳房は一般的に小さく高密度で、マンモグラフィでは病変が見逃されやすく、逆に超音波に効果があると言われています。逆に脂肪が多い大きな乳房だと、超音波での検査が難しい。最近ではマンモグラフィと超音波を比べた研究も始まっていますが、乳房の違いやリスクなども理解しつつ、それでもやる必要があるのか、本当に効果があるかを考えることも大事です。

もし乳がんと診断されたら…必要な心構えとは?

検診の結果、乳がんと診断されたら、まず何を考えるべきでしょうか。

聖路加国際病院ブレストセンター内にあるスマイルサロン。乳がん患者や患者体験者の交流の場となっている。

乳がんと診断されて、「夜中に目が覚めて"嘘だった"なら、どんなにいいだろう」という気持ちになる人は多いと思います。本当に大変ですし辛いことですが、先の治療に進むためにも、患者さんにはその事実を冷静に受け止めて、医師と一緒に考えて歩んで行って欲しいですね。これまで医療の現場では、患者が医師に任せて従うという、一方向に治療方法が決められることが多かったと思います。でも納得のいく説明を受けなかったり、たんに楽だと思う治療法を選んで、もし再発した場合に「あの時、もう少し考えれば良かった、あれをすれば……」などと後悔しながら、再び治療に臨むのはとても辛いことだと思います。逆にとことん悩んだ上に選んだ治療だったとしたら、そこから次のステップに進んで行けます。ですから、「頭が痛くなるぐらい悩むと思うけれど、一緒に悩んで決めましょう」と、私はいつも患者さんにお話しています。そうやって患者と医師が必要な情報をシェアしながら、治療方法を決めて進めていくことが、とても大切だと思いますね。

治療の選択肢があるのが乳がん

「患者と医師が考えをシェアする」ということにもつながりますが、山内先生がモットーに掲げていらっしゃる「NBM=Narrative Based Medicine/ナラティブに基づく医療」について少し教えて頂けますか。

「ナラティブ」というのは「物語」、つまり私は、患者さんのバックグラウンドをよく聞いて知った上での治療がとても大事だと考えています。乳がんと診断されて、会社を一人で切り盛りしている人なら、とにかく早く乳房の全摘・再建をして、放射線治療もしないで済ませたいと思うでしょうし、小さなお子さんとがいるお母さんは、お子さんと一緒にお風呂に入る時、ショックを与えないように傷を目立たせないようにしたいという人もいるでしょう。本当に、それはいろいろなので、その人の人生にとって何がベストかを一緒に考えていく必要があるんですね。特に乳がんの場合、治療の選択肢が多いですから。昔は乳がんと言えば、筋肉も含めて脇の下から根こそぎ切り取る治療でしたが、今は温存や、全摘しても再建もすごくきれいにできるようになってきています。以前は医学的見地から、5年生存率が何%であるとか、生存年数を延ばすことが重視されてきましたが、がんが慢性疾患と位置づけられた今、「サバイバーシップ」という、乳がんの治療が一段落してからの人生についても目を向けるべきだと私は思っています。乳がんと診断されてからの長い人生があるので、一人一人の物語、何を大切に生きてきたかを聞き出しながら、「患者らしく」ではなく、「その女性らしく」生をまっとうするための治療法を一緒に考えていきたいんですね。

日本の女性たちに、今伝えたいこと

最後に、日本の女性たちへのメッセージをお願いします。

まずは検診も含めて、乳がんについて知ることから始めて欲しいですね。「怖い、痛い」といって検診を受けないのが一番よくないので。乳がんのことを広く知ってもらう意味で、「ピンクリボン活動」にはとても感謝しています。アメリカなどでは、同じ商品があって、片方にピンクリボンが付いていたりすると、それを選ぶ女性が多いんですよ。「ピンクリボン」を通じて、社会貢献のことにも興味を持って、日本の女性にもっと賢くなってもらえたらいいですね。
一方で、医学には限界があるし、医療技術がどんなに進んでも、人間の全部のがんを早期で見つけるまでには、まだまだ時間が必要なのも事実です。ただ今の日本では、死というものが必要以上にタブーになってしまっているなと私は感じているんですね。けれど、生まれたからには必ず死が訪れるわけで、その限られた時間の中でどう生きたいのか。それを考えつつ、どんな時も、その人らしく生き抜いていくことが大事なのではないかと。私が大好きなアメリカの神学者、ラインホールド・ニーバーの言葉を借りるならば、「神よ、変えられないものを受け入れる冷静さと、変えるべきものを変える勇気と、その両方を見分ける英知とをお与え下さい」と。この気持を持って欲しいと、患者さんたちにはいつもお話していますし、私も、この言葉のようにありたいと思っています。

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